小千谷縮の歴史

新潟・小千谷の地(越後地方)で織物が始められたのはおよそ1200年前と言われています。文献では西暦750年頃に朝廷へ越後国の麻布が献上されたとの記録もあり、当時の最高級織物として認知されていたことが伺いしれます。その後も幕府の公服に使われたり、権力者への贈り物にされるなど越後布は必需品となり、日本を代表する織物として成長していきました。

豊臣政権の時代になると、魚沼地方の生まれである直江兼続は新田開発を積極的に進め、現在の米所の礎を築き上げ、さらなる商業発展の為に、魚沼地方に自生するカラムシから取れる青苧(あおそ)に着目し始めます。直継は領民のために『農戒書』を記し、正月には女子は男子のために糸をとり、青苧をひねり、着物を作れ、と記述を残すなど麻布を積極的に増産し、京への輸出などで莫大な利益を築いてゆきました。

ここまでは越後布の話ですが、江戸時代に入ると明石出身の浪人である堀次郎将俊は、絹織物である明石縮を応用した技術を越後布に施して改良することに成功し、越後縮を生み出します。その改良とは、緯糸に強い撚りを加えてシボ(しわ)をだし、苧績みや布のさらし方にも工夫を凝らしたもので、まさに現在の小千谷縮の原型となるものでした。


家族と縮布を制作する堀次郎将俊

山谷の庄屋に妻と娘の3人で暮らす堀次郎は、越後縮を村人に教え、徐々に魚沼地方全域に広がってゆきました。さらに夏の高級織物として全国に知れ渡ると、縮は諸大名の御用達の麻布となり、贅沢品として奢侈禁止令の対象になるほどだったそうです。そして越後縮は小千谷縮と名を変え、現在でも夏の衣類用素材として重宝されるなど、大きな評価を得ているのはご存知の通りかと思います。

堀の死後、小千谷の名を発展させた彼の功績を称え、明石堂が建てられました。今でも9月12日には、織物組合によるお祭りが開かれるなど、堀次郎の存在は小千谷でもまだ根強く生き続けています。


明石堂

堀次郎夫婦のお墓

越後上布・小千谷縮年表

養老年間(77~724)
租、庸、調の税制の中で代物納として麻布が大きな役割を果たす。
天平勝宝(749)
越後麻布として確認できる最古の布が織られた年。後に奈良正倉院の未整理の倉庫から発見される。当時の府貢として物納されたものの一部と思われる。
奈良朝時代(715~782)
宮中で行われる法華八講の導師への礼物として、越後布が用いられる。(そのため越後布を八講布と称した)
延長五年(927)
『延喜式』には、越後布一千反が上納されたとの記述があり、宮廷に越後の布を納めていたことが分かる。
康平二年(1059)
『東大寺文書」に越後国の未晒し布についての記述がある。
建久三年(1192)
『吾妻鏡』には征夷大将軍である源頼朝の宣下のため、はるばる京都より下降した勅使に対し、越後布千反を贈物したとある。
室町時代文明十八年(1486)
越後国守護、上杉房定が足利義尚へ越後布30反を贈り物とする。
天正四年(1576)
『小千谷縮史』に依ると、上杉謙信が織田信長に対して越後の麻布千反を献上。
天正十四年(1586)
上杉景勝が大阪城にて豊臣秀吉に越後布三百反を献上。
桃山時代(1573~1596)
木綿の普及にしたがい、粗布から上質な越布(上布)に移行が始まる。
慶長年間(1611~1615)
豊臣秀吉が白布の税を石高に組み込み、口布高税と称す。
寛文年間(1661~1673)
元明石藩の堀次郎将俊が流浪して今の小千谷市の山谷に住居し、明石にいたころに見慣れていた縮の技を麻布に工夫し、縮布の礎を造り出す。
延宝年間(1673~1681)
縮布が本格的に広まる。縮布の改良は年毎に進み、幕府諸大名の御用布をは じめ、三都の庶民までこれを着用し需要が盛んになった。
天明五年(1785)
越後縮布、上布の生産が最高となる。その量は年間22万反とも言われた。しかしこの量はあくまでも市場集計であり、個々取引のものを併せると33万反を越えたものと推測される。
天保年間(1830~1844)
天保改革にて奢侈品の禁止令が出され、縮布が対象となる。上布から粗布に一時逆戻りとなるが、暫時して正常に戻る。
明治維新(1868)
この時代を迎えて、越後の生産機構は機業的組織に移行し、十日町、小千谷、塩沢等の産地を構成する。
明治四年(1871)
オーストリアのウィーンで開催された万国博覧会に、小千谷縮布が出品される。
明治十一年(1878) 9月
天皇北陸御巡幸の際に長岡で縮布を献上。
昭和三十年(1955) 5月
越後縮が国指定重要無形文化財に認定される。
昭和三十五年(1960) 4月
指定名称が越後縮から小千谷縮・越後上布に変更される。
平成二十一年(2009) 九月
小千谷縮越後上布が、国連教育科学文化機構(ユネスコ)の無形文化遺産代表リストに登録される。

小千谷縮についてのトップに戻る