特別コラム

山口順子のエッセイ『縮を愛する』⑦

投稿日: 2015/9/7  /  カテゴリ: 特別コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
 エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
 縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。
全7回にわたって書いてくださったエッセイも今回、
最終回を迎えました。

『夏には夏の・・・』

昔は良かった。懐古趣味を持ち出すつもりはないが、
良いものは時代を経てもなお良い。
化学製品はその良いものを追いかけて超えることで、
新たに生み出されるものである。
絹に代わるナイロン、羊毛に代わるアクリル、
ゴムに代わるスパンデックス。
そして、ポリエステルは生活を容易にする
第一のものとして君臨する合成繊維である。
しかし、何れの合成繊維も天然繊維に類似こそすれ、
同じ組織構造を持ってはいない。
そして、麻に似た合成繊維はない。
昔が良かったのは、麻の文化が身近なものであったことである。
麻の最良の長所は肌触りの冷涼感にあり、
吸水が速くかつ乾燥も速いことである。
水田社長はこの点を寝具類に着目され、
この文化の事業化に本格的に取り組んでおられる。
兼好法師曰く、家は夏を旨とすべし、と。
高温多湿、特に最近の日本の夏はこの言葉がぴったりだ。
そう、夏には夏の繊維製品を用いよう。
私は小千谷縮のシーツの上に身を横たえて優雅な眠りをいただいている。

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

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1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。

第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』
第3回『縮のお座布団』
第4回『究極のクールビズ』
第5回『小千谷縮の服を着物から縫う』
第6回『京都の祇園祭りで』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』⑥

投稿日: 2015/8/27  /  カテゴリ: 特別コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
 エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
 縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)

『京都の祇園祭で』
娘の学業の都合で京都に住み始めて3、4年が経った夏、
高校生の娘たちが祇園祭の宵山に浴衣で行きたいと言う。
その頃、私は麻の文化史の研究を始めていたので、
実家から麻関連のものを貰ってきていた。
その中に祖母の着物もあった。
とっさにそれを着せよう、と思いつく。
桐ダンスの底から2枚を引き出す。
まっ黒ではないが黒地に麻の葉模様のものを長女に、
藍色の小千谷縮を次女に、
そして赤い反幅の帯を蝶々に結び付け、
手には米沢で買っていたざっくり織られた紅花染めの
麻の巾着袋を持たせた。
この時の娘たちの心情を推察する。
多分、地味な着物・・・と思ったに違いないが、
一言の文句も言うことなく出掛けて行った。

しばしして、上品な2人連れのおばさまに褒められた!と
興奮気味に帰ってきた。
曽祖母のものを着ていると言ったら
「昔の良いものを着てくれて嬉しいわ。とってもよく似合っているね」
と話かけられたとのこと。
おそらく、そのおばさま方が上品な方であったならこそ、
本人たちに説得力を与えたのであろう。
かくして着物好きの次女は、
曽祖母や祖母の麻の着物を今も大切に着ているのである。
もちろん、新しいものは私が縫っている。
次女曰く、小千谷縮は着て気持ちが良いし洗濯も楽やから、
遠慮なく着られて良い、と。

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

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1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。

第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』
第3回『縮のお座布団』
第4回『究極のクールビズ』
第5回『小千谷縮の服を着物から縫う』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』⑤

投稿日: 2015/8/11  /  カテゴリ: 特別コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)

『小千谷縮の着物から服を縫う』

10代の終わりごろ、亡き祖父たちの着物の良いとこ取りをして
ブラウスを縫った。
一つは生成りの地に細かな米粒模様の上布を
用いた襟なし袖なしのブラウス、
もう一つは藍色無地の縮でこちらはフレンチのお袖に。
どちらの着物もかなり着こまれたものらしく、
薄くなったり傷んだところが多くて裁断に苦労したことを思い出す。
でも、とても嬉しくてミシンを踏んだ。
化学繊維万能の時代のなかで、
天然繊維のリフォーム服を着ることに不思議な誇りを
感じる私がいたのである。
また、曽祖父の生成りの麻のスーツが蔵の箪笥から
見つかりスカートを作った。
国会に登院するときに着用したものだという。
これは美しかったのでリフォームも楽に出来たが、
そのスカートを履けば大きなシワが出来た。
シワにならないことが良いものという価値観のなかで、
ちょっと戸惑いがあったなあ。

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

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1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。
第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』
第3回『縮のお座布団』
第4回『究極のクールビズ』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』④

投稿日: 2015/8/5  /  カテゴリ: コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)

『究極のクールビズ』
子供の頃、着るものはすべて母の手によるものであった。
木綿のものには糊づけをして、ピンとアイロンのあたったものを
着せてもらっていた。
そう、父のワイシャツと同時の仕事であって、
余熱でハンカチのアイロンがけをするが私の仕事であった。
そんな母もさすがに夏は嫌だったのか、
夏の日常着はサッカー、お出かけにはリップルと
アイロン不要のものとなるのであった。

大人になって、旅に出る夏はサッカーの服を縫う。
着替え1枚を携えて、宿に着けば洗って干す。
身軽な旅をした。
サッカーは木綿の細かな凹凸のある生地で、
小千谷縮のいとことしておこう。
ちなみに、小千谷縮は苧(ちょ)麻(ま)の凹凸(しぼ)のある布である。
糊づけやアイロンがけの要らない小千谷縮の布は、
環境問題が問われている今、最も優秀な衣服材料と言って過言ではない。
今や家族の夏服は、ほとんどが縮のものとなっている。
究極のクールビズだ!

 

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

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1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。
第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』
第3回『縮のお座布団』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』③

投稿日: 2015/7/24  /  カテゴリ: コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)

 

『縮のお座布団』

お座布団、夏の家用はジャワ更紗、来客用は近江の縮であった。
この縮のお座布団は私が大人になってもまだ使われていた。
家用は薄く、来客用はぶ厚い。
しかし、この厚みが私にはあまり座り心地の良いものではなく、
今もお座布団は苦手で、畳に正座するのが好きである。

終戦前まで、商人の来訪によって新しい座布団を買ったり、
洗いに出したりしていた、と母から聞いている。
大阪は河内木綿の産地なのに、と大学生のころ尋ねたことがある。
「この家では河内木綿のものは使わなかった」と、
母から我が家の生活史の一端を聞かされた。
はぁん、縮は上等なものなんだ。
先に書いた小千谷縮の夏布団、祖母の家の立派だった間仕切り、
そして、お座布団。縮が生活空間を豊かにしてくれることを
幼い時から自然のうちに教えてくれた祖母と母の
「生活即教育」の精神のなさせた賜物なのだ、とつくづく思う。

 

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

IMG_0826

1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。
第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』②

投稿日: 2015/7/8  /  カテゴリ: 特別コラム  /  投稿者:

縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイです。
『縮を愛する』というテーマを軸に、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)

 

『祖父母の家で夏休みを過ごす 』

中学生になって電車で30分、ひとりで大阪市内の祖父母の家に行くようになった。
そこで10日余り滞在、その家でもまた小千谷縮に出会うのであった。
そのあたりは空襲を免れた地域で、
市内といっても大きなお屋敷もある静かなところであった。

梅雨に入る前、建具はふすまから葦戸に入れ替えされ、
8畳と6畳続きの間の4枚戸は中央の2枚が左右に開かれる。
その空間に掛けられていた間仕切り、確か5枚だったか。
着物から作られた祖母自作の丈の長いもの、
流水模様の小千谷縮でできていた。
庭から流れ込む風でゆっくり揺らめいて、
涼しさを感じたのだった。
薄手の麻布ならではの揺らぎであった、と今にして思う。

かつては教員をしていたモダンで美人だった祖母を思い出す度、
小千谷縮の間仕切りが目に浮かぶ。
気高かった部屋のしつらえに、
少女の頃から触れられたことに感謝したい。
これまた私の縮好きのもう一つの影響と思うのである。

 

◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

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1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家

過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。
第1回『縮との最初の出会い』

山口順子のエッセイ『縮を愛する』①

投稿日: 2015/4/8  /  カテゴリ: 特別コラム  /  投稿者:

当ブログにて、縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイ連載がスタートします。
『縮を愛する』というテーマを軸に、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。

今週より計8回にわたり、連載をさせていただくことになりました。

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◆プロフィール  山口順子(やまぐちじゅんこ)

1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師

麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家
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『縮との最初の出会い』

4月、これまでの寒さが薄れて汗ばむ陽気の日があると、
“あぁ、小千谷縮の服が着られる”とワクワクする。
私は4月から9月終わりまで、小千谷縮の洋服を愛用する。
こんなに愛用するようになったのは小学生時代の夏休みにまで遡る。
なぜかはっきりと想い出す。
蚊帳の中で寝た風景、小さめの掛布団の気持ちの良かったことを・・・

60年前、真夏でも30℃を越える日は2、3日で、日中は27℃位であった。
夜具の掛布団は縮で出来ていた。
青紫色の桔梗模様の優しいザラザラした肌触りの私のお布団、大好きだった。
はじめは脚の間に挟んで横向きに寝ていたものが、
いつの間にかきっちり首までかけて朝を迎える。
ところで、この生地が布団用のものだったのか着物の再利用だったのかは
今になって知る由もないが、当時、縮であることを母から教えられ、
「上等なお布団なのよ」と聞かされていた。
多くの家では木綿物であったらしい。

この寝心地の良かった愛すべき縮のお布団が、
懐かしさを伴って、今、小千谷縮を愛用する原点のひとつになっている。