縮の研究に取り組んでいらっしゃる山口順子先生の
エッセイです。
『縮を愛する』というテーマで、
縮にまつわるお話をわかりやすく綴っていただくコーナーです。(全8回)
『京都の祇園祭で』
娘の学業の都合で京都に住み始めて3、4年が経った夏、
高校生の娘たちが祇園祭の宵山に浴衣で行きたいと言う。
その頃、私は麻の文化史の研究を始めていたので、
実家から麻関連のものを貰ってきていた。
その中に祖母の着物もあった。
とっさにそれを着せよう、と思いつく。
桐ダンスの底から2枚を引き出す。
まっ黒ではないが黒地に麻の葉模様のものを長女に、
藍色の小千谷縮を次女に、
そして赤い反幅の帯を蝶々に結び付け、
手には米沢で買っていたざっくり織られた紅花染めの
麻の巾着袋を持たせた。
この時の娘たちの心情を推察する。
多分、地味な着物・・・と思ったに違いないが、
一言の文句も言うことなく出掛けて行った。
しばしして、上品な2人連れのおばさまに褒められた!と
興奮気味に帰ってきた。
曽祖母のものを着ていると言ったら
「昔の良いものを着てくれて嬉しいわ。とってもよく似合っているね」
と話かけられたとのこと。
おそらく、そのおばさま方が上品な方であったならこそ、
本人たちに説得力を与えたのであろう。
かくして着物好きの次女は、
曽祖母や祖母の麻の着物を今も大切に着ているのである。
もちろん、新しいものは私が縫っている。
次女曰く、小千谷縮は着て気持ちが良いし洗濯も楽やから、
遠慮なく着られて良い、と。
◆プロフィール 山口順子(やまぐちじゅんこ)
1944年大阪府生まれ、京都在住
武庫川女子大学大学院修了
元 神戸松蔭女子大学・短大部 准教授
元 武庫川女子大学・短大部 非常勤講師
麻の研究に取り組むとともに、学生教育の中で小千谷縮を取り入れ、その普及に
力を注いできた小千谷縮愛好家
過去のエッセイはこちらからご覧いただきます。
第1回『縮との最初の出会い』
第2回『祖父母の家で夏休みを過ごす 』
第3回『縮のお座布団』
第4回『究極のクールビズ』
第5回『小千谷縮の服を着物から縫う』